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イルカが教員試験に合格した。 「お、カカシも本買うのか?」 書店の人との話しが終わったのか、両手いっぱいに参考書やら問題集やらを持ったイルカが同じレジに並んだ。 「そ、これ。いつも読んでるタイトルの本が新刊で書店に売ってるってわざわざ部下が言ってたからね。」 へえ、とイルカは俺の持っていた本を見た。が、数秒後に顔を真っ赤にした。 「お、お前これっ、昔読んでたえっちぃ本じゃねえかよっ!」 昔一度だけ見せたことがあったな、そう言えば。会計を済ませて受け取った本をイルカに見せつつ、俺はにやりと笑った。 「なに、興味津々なわけ?よかったら貸すけど?」 言うとイルカはますますもって顔を赤くした。うわ、首筋まで真っ赤になってるよ。イルカは純情だからなあ。中身なんか見たら鼻血噴くんじゃないの? 「けっ、結構だっ!!」 イルカは手に持っていた本をレジにどさりと置いた。なによなによ、本当は見たいんじゃないの〜?もう二十歳も過ぎたことだし、酒だって女だってばくちだって解禁なのに、イルカは本当、酒は嗜む程度にしか飲まないし、女なんて目の前にしただけで緊張してるみたいだし、博打なんてしないし。イルカは結構貯蓄してるよね、何に使うのかは解らないけど。 「げっ、さっきから妙に静かだと思ったらお前、そういう本は家に帰ってから読めよ。何もこんな所で読まなくてもさあ。」 イルカは心底呆れているようだ。 「なに?一緒に読みたいの?」 「ばーか、俺のこの参考書の山が見えないのかっての!」 イルカは勤勉家だ。そのくせ一つのことに集中するからと言って他の事を疎かにするでもない。俺は適当に相づちを打つと著者の名前を見た。 「げぇえええっ!!」 「なっ、カカシっ、でっかい声出すなっ。」 イルカは周りをキョロキョロと見ている。だがそんなことどうでもいいよ。 「なにやってんだ?おもしろくなさそうなのか?」 「いや、それ以前の問題って言うかさ、イルカは三忍って知ってる?」 「ああ、自来也様に綱手様に大蛇丸、だろ?」 「この本の著者がその中の1人なのよ。」 「えっ、大蛇丸なのかっ!?」 いや、そんなわけないから、あの人里抜けてるから。っていうかこんな内容の本をあの爬虫類のような目の男が書いていて俺がずっと所持していたと思うと怖気が走るんですけど...。 「違うよ、四代目の上忍師が自来也様でね、たぶんのその繋がりで四代目が持ってたんじゃないかな。」 「え、それカカシが自分で買ったんじゃないの?」 失礼なっ!俺はこれでも優良児童だったのよ?酒も煙草もしなかったし。 「なんで俺が買うのよ。これは四代目の形見分けでもらったの!」 「なんで形見分けに18禁のいかがわしい本をもらってくるんだよ。まあ、思い出深い品だって言うなら仕方ないけど。」 ぶつぶつ言うイルカの目は不審だと物語っていた。これは俺の沽券に関わるゆゆしき事態ですよ先生、なんてことしてくれるんですか。 「四代目がさ、イルカと仲良くするためにって言うんで俺にこれを差し出してきたことがあったんだよ。俺はまだ未成年だったから一度いらないって言ったんだけどね。でもあの人英雄になっちゃって、どうせ俺にくれるもんだったんなら仕方ないから貰ってやろうと思って。俺っていい部下でしょ?」 俺はへらへらと笑って言った。イルカはなにやらどう言っていいのか困ったような顔をしている。普通に聞けば師弟愛という涙ぐましい麗しい話しに聞こえるが、実質その物は18禁のいかがわしい本だと思えば諸手をあげて微笑ましいとも言えないのだろう。こういう嘘の付けない性格も俺の好きな部分なんだよなあ。 「なっ、なんだよっ。今日は揚げ茄子の煮浸しにしてやろうと思ったのに、作ってやんねえぞっ。」 笑われてむっとしたイルカが歩調を早くした。 「あ、ひっどーい。イルカが作ってくんなきゃ俺は誰に飯をたかればいいのよ。」 俺がひどいひどーい、と文句を言うと、 「ならちゃっちゃと帰るぞっ、荷物持てっ。」 イルカはそう言って俺に本を差し出した。本って結構重いよね。写真なんかの多い本だったら余計に。でも俺はお荷物持ちいたしまーす、とイルカの本を片手でひょいひょい抱えた。イルカはそんな俺の苦でもない様子にふて腐れていたが諦めたのか、苦笑いして歩き出したのだった。 |